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密かに甘噛み 8

last update Last Updated: 2025-05-09 16:44:30

言うのを我慢していたことが、次から次へとこぼれだす。

でも、嘘はつけない。

「そっか」

セツ君は急に肩を揺らしながら、あはは、と笑い出した。

笑ってるのに楽しさはまるでない、むしろ悲しくて笑ってるというか。

相変わらず目の奥は暗いまま。

いや、さっきよりも|仄暗い闇を宿しているみたいに見える。

その目を見るとゾッと怖くなった。

「花ちゃんには僕の気持ちは重かったんだ。でも大丈夫。贈り物してるのは、僕の気持ちだから、花ちゃんは受け取るだけでいいんだよ」

「⋯⋯セツ君は隠し事してる。だからどうしても好きになれない。何で隠すの。私が知ったらいけないようなコトなの?」

「知りたい?僕のことを?嬉しいな。でも、教えられないや。花ちゃんが僕を⋯⋯好きで好きでどうしようもないくらいなら、教えてあげられるんだけど」

そうやってまたのらりくらりなんて、させない。

「いつも、私に対してかわしたりするけど⋯⋯本当は凄く悩んでるんでしょ。ねえ、教えてよ」

セツ君は少し黙って、言葉を選ぶような素ぶりを見せた。

「⋯⋯もし、僕が危ない人間だとしたら?」

「⋯⋯へっ?」

ーー危ない人間だとしたら?

私が予想してた返事とは、あまりにも違いすぎる。

危ない人って、何?

セツ君は優しい人。秘密はたくさんあるけど、危ない人間なはず、ない。

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